卵子凍結とは?【不妊治療・三軒茶屋ARTレディースクリニック】
女性の人生で妊娠・出産できる時期は限られています。その大きな理由が、加齢による卵子や卵巣の機能低下です。病気やその治療によって、さらに妊娠できる時期が短くなるケースもあります。この問題に対して注目されているのが卵子凍結です。どんな治療法なのか、詳しく解説します。
卵子凍結とは?
卵子凍結とは、卵巣から採取した卵子を凍結保存することをいいます。採取された卵子は、細胞が壊れないよう、超急速に冷却され、低温保存されます。状態の良い卵子を凍結保存することで、望んだタイミングでの妊娠・出産への希望をつなげることができるのです。
凍結された卵子は、融解して顕微授精を行うことで受精卵となり、それを子宮内に戻すことで妊娠の成立が期待できます。
「卵子凍結(未受精卵凍結)」と「受精卵凍結」の2つの違い
卵子凍結は、受精していない状態の卵子を凍結することを言いますが、受精した卵子を凍結する「受精卵凍結」という方法もあります。卵子凍結と受精卵凍結の違いは、2つあります。
1.凍結保存のタイミング
卵子凍結の場合、受精前に凍結保存することになりますが、受精卵凍結では受精後に凍結保存することになります。受精卵凍結のほうが、融解による影響を受けにくいとされています。
2.受精方法
卵子凍結の場合、卵子の外側の膜が硬くなっているため、受精の方法は顕微授精が選択されます。受精卵凍結の場合には、凍結前に受精が行われるため、顕微授精か体外受精のどちらかが選択できます。
卵子凍結の目的は?
卵子凍結は以前は医学的適応のみでしたが、現在は社会的適応の卵子凍結が増えています。どう違うのかみてみましょう。
① 医学的適応による未受精卵子凍結
がんなどの病気の治療法の中には、卵巣機能が低下し、治療後の妊娠が難しくなるものがあります。そのため、治療後に妊娠ができるように、治療を開始する前に卵子凍結が行われる場合があります。これが医学的適応による卵子凍結です。
引用元)厚生労働省 医学的適応による未受精卵子,胚(受精卵)および卵巣組織の 凍結・保存に関する見解
② 社会学的適応による未受精卵子凍結
女性は35歳以上になると、妊娠率の低下に加えて流産率が上昇します。なぜなら、加齢に伴って卵子や卵巣機能が低下し、染色体の異常が起きたり、受精卵の発育が途中で止まったりしやすいためです。
しかし、35歳までに妊娠・出産ができる環境が整うかはわかりません。仕事のキャリア形成や、家族の介護や療養などで、現時点では妊娠・出産を考えられない場合もあるでしょう。そんな場合に、将来の妊娠に備えて行われる卵子凍結が、社会的適応による卵子凍結です。
卵子凍結のメリット・デメリット
年齢が若い時点で卵子凍結を行えば、卵子を若い状態で保存できることになります。妊娠を望んだときに排卵されている卵子に比べて、染色体異常や発育が止まるなどの問題が起きにくいことが期待できます。
しかし、卵子凍結をすれば、いつでも妊娠・出産できるというわけではありません。卵子凍結は卵子を凍結・融解するため、通常の卵子(新鮮卵子)に比べて受精卵の発育が止まりやすい傾向があります。
また、母体の年齢が上がれば、それだけ病気を抱えやすく、流産や早産、妊娠高血圧症候群などの妊娠合併症が起こりやすくなります。
費用面も問題となりやすいでしょう。卵子凍結は保険適用外の治療ですので、治療費が高額になります。
卵子凍結は何歳まで?
日本生殖医学会が2018年に報告した「未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関する指針」では、社会的適応による卵子凍結について、採卵時の年齢は36歳未満が望ましいとしています。
ただし、卵子凍結を行っている病院やクリニックによって、採卵時の年齢の制限は異なるため、受診前にホームページや電話などで確認しておくと安心です。医学的適応による卵子凍結については、病状や治療法などが関わってくるため、医師に相談に相談しましょう。
卵子凍結ができる人は?
社会的適応の卵子凍結の場合は、成人した女性が対象となります(医学的適応の場合は未成年も対象)。未婚・既婚で卵子凍結ができるかどうか、変わってくるのでしょうか?
引用元)厚生労働省 医学的適応による未受精卵子,胚(受精卵)および卵巣組織の 凍結・保存に関する見解
未婚の場合
本人の妊娠・出産を目的として、加齢などによる卵子や卵巣機能の低下の可能性について心配な場合に、卵子凍結が受けられます。
既婚(または事実婚)の場合
未婚の場合と同様に卵子凍結は受けられますが、多くの場合、未受精卵子凍結ではなく受精卵凍結が勧められます。これは、未受精卵子凍結よりも受精卵凍結のほうが妊娠率が高いためです。
卵子凍結の副作用
卵子凍結には、卵子を体外に取り出す「採卵」が必要です。そして、一度の採卵で多くの卵子を取り出せるよう、排卵を促す「排卵誘発」という治療が行われます。この排卵誘発と採卵のときに、副作用が出る可能性があります。
排卵誘発による副作用
排卵誘発には、排卵誘発剤が使用されます。排卵誘発剤は、卵巣を刺激し、卵子の成長を促す薬です。注射で投与するほか、飲み薬や点鼻薬があります。排卵誘発剤は、まれに卵巣過剰刺激症候群(OHSS)という副作用を起こす場合があります。
卵巣過剰刺激症候群とは、卵巣が過剰に刺激され、下腹痛やお腹の張り、卵巣の腫れ、腹水や胸水が溜まるなどの症状がみられる状態です。重症になると、呼吸困難や肺水腫(肺に水が溜まった状態)、血栓塞栓症、腎機能障害などが起きる場合があります。
採卵による副作用
採卵は、膣から細長い針を卵巣に刺して行われます。針を刺すことで、卵巣からの出血や周りの臓器や血管を傷つける可能性があります。輸血が必要な場合や、感染をおこす場合もありますが、まれです。
採卵時の麻酔による副作用
採卵は痛みを伴うため、麻酔が行われることが多いです。局所麻酔と静脈麻酔があり、局所麻酔では気分が悪くなったり、痛みが十分取れなかったりすることがあります。静脈麻酔では、気分が悪くなる、嘔吐、血圧の低下などがみられる場合があります。
卵子凍結の妊娠率は?
日本とアメリカでの卵子凍結後の妊娠率は、胚移植(受精卵を子宮に戻すこと)あたり、約25%といわれています。
凍結胚移植(凍結した受精卵を子宮に戻すこと)の場合、日本での妊娠率は36%なので、卵子凍結よりも受精卵を凍結させた場合のほうが妊娠率が高いことがわかります。
採卵から凍結保存までの流れ(手順・進め方)
採卵から凍結保存まで、どんな流れで卵子凍結が行われるのかみてみましょう。
- 排卵誘発
排卵誘発剤によって、複数の卵子の発育を促します。 - 採卵
麻酔を使用し、痛みを抑えた状態で膣から細長い針を刺し、卵巣から成熟した卵子を吸い出します。 - 卵子の凍結
採取した卵子を、凍結による影響が最小限になるように保護し、液体窒素に入れて凍結します。
卵子凍結から妊娠までの流れ
凍結された卵子が妊娠にいたるまでの流れをみてみましょう。
- 加温
凍結された卵子を、専用の液体に入れて温めます。 - 調整
卵子に負担がかからないように、段階的に眠っていた細胞を起こします。 - 受精・培養
顕微授精を行い、受精卵を培養します。順調に細胞分裂が進むか観察します。 - 胚移植
順調に育った受精卵を子宮内に移植します。無事に着床すれば、妊娠成立となります。
卵子凍結の費用・助成金 について
卵子凍結は保険診療ではなく自由診療のため、全額自己負担となります。検査や排卵誘発、採卵、凍結費用などで数十万円必要です。目安としては、30万円~45万円ほどになりますが、クリニックや病院によってかかる費用は異なります。卵子の保存にも、年間で1個あたり数万円の費用が発生します。
社会的適応による卵子凍結は、公的な助成金がありません。しかし、最近では女性の福利厚生として、社会的適応による卵子凍結の費用の一部補助を始めた企業も出てきています。
医学的適応による未受精卵子凍結については、助成を受けられる場合があります。凍結保存時の年齢が43歳未満であり、治療によって妊娠が難しくなる可能性がある場合などが対象です。未受精卵子凍結の助成費用としては、1回あたり20万円まで、通算2回まで助成を受けられます(受精卵凍結などほかの治療を受けた場合であっても通算2回まで)。
助産師からのメッセージ
\ 卵子凍結の検査や流れが分かる /
卵子凍結 説明会動画
中友里恵
卵子凍結は、将来の妊娠を望む方にとって、希望をつないでくれる治療法です。医学的適応による卵子凍結は以前から行われており、社会的適応による卵子凍結も企業の福利厚生として導入されるなど、間口が広がってきています。
しかし、卵子凍結をすれば必ず妊娠できるというわけではないこと、卵子凍結による副作用があること、母体の年齢が上がれば高齢出産になり、妊娠合併症のリスクは上がることは知っておいてください。
そして、それらの情報をきちんと提示し、相談できるクリニックや病院で治療を受けることが大切です。