子どもを望んだとしても、すぐに妊娠できるとは限りません。2021年の調査によると、不妊を心配したことがある夫婦の割合は39.2%。不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦も22.7%にのぼります。このコラムでは、妊娠しやすい人の特徴や妊娠のしくみなどを解説し、妊娠しやすい体の作り方をお伝えします。本記事を読むことで疑問や悩みが和らぎ、妊娠へのヒントが得られれば幸いです。
妊娠しやすい人の特徴とは?
まず、妊娠しやすい人の特徴を詳しく見ていきましょう。
月経周期が正常
月経周期の正常範囲は25〜38日です。これより短い、もしくは長い方は排卵のタイミングがずれていたり、排卵回数が少なかったり、排卵していない場合があります。月経周期の問題は放っておくと排卵が難しくなることもあるので、早めに医師に相談してください。
生理時の経血量が正常
正常な生理時の経血量は、1周期の総出血量として20-140ml程度。一般的に量が多いとされる2日目で、2〜3時間ごとにナプキンを変えるようなイメージです。
生理痛がない(または軽い)、性交痛がない
重い生理痛や性交痛がある場合、子宮内膜症があるおそれがあります。子宮内膜症は、不妊の原因になることがあります。
35歳以下
35歳を境に次第に妊娠率は低下し、流産率は上昇します。女性の社会進出とともに晩婚化と晩産化が進んでいますが、子どもを望むなら35歳までにある程度のライフプランを考えておいたほうがよいでしょう。
体重が適正
太りすぎ、痩せすぎは排卵障害や生理不順を引き起こすことがあります。
自分も家族も喫煙していない
女性の喫煙や受動喫煙、または男性の喫煙によって、妊娠率が低下します。
甲状腺疾患や糖尿病などの持病がない
甲状腺疾患や糖尿病などの持病は、不妊の原因になることがあります。気になる症状がある場合は、早めに病院で検査しましょう。
大人になってからおたふくかぜにかかったことがない(男性の場合)
男性が思春期以降におたふくかぜにかかると、精子を作る働きが下がることがあります。
もちろん、上記の項目をすべてクリアしていてもすぐ妊娠できるとは限りません。他にも不妊の原因は多く存在します。
妊娠しにくい人の特徴とは?
次に、妊娠しにくい人の特徴を詳しく見ていきましょう。
35歳を過ぎている
女性は35歳を過ぎると急激に妊娠率が下がり、流産率が上がります。
加齢による卵子の質の低下、すなわち卵子の染色体異常や受精後の胚の発育悪化が起きやすくなることが原因だと考えられています。
太りすぎ、または痩せすぎている
太りすぎはホルモンバランスを崩してしまうため、注意が必要です。太りすぎの女性のなかには、糖や脂質の代謝異常から無排卵になってしまう人や、排卵が行われずに卵巣に卵胞がたまっていく「多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣症候群」になる人もいます。
また、糖尿病になりやすい体質の人も、排卵障害を起こしやすいと言われています。痩せすぎにも気をつけましょう。痩せすぎていると、脳は「栄養不足」だと判断します。そのため、生命の維持に不要な卵巣の機能を停止して、排卵を止めてしまうのです。
基礎体温に変化がない
通常、生理から次の生理までの間には、排卵までの低温期と、排卵後の高温期の2つがあります。しかし、基礎体温に変化がない場合には、生理があっても排卵していない可能性が考えられます。不安があるときには、早めに医師に相談しましょう。
自分あるいは家族が喫煙している
女性の喫煙や受動喫煙は、卵巣機能を低下させてしまいます。妊娠中の喫煙も、胎児の発育に悪影響を及ぼし、早産のリスクを高めます。
また、男性も注意が必要です。喫煙によって精子が作られにくくなったり、勃起不全のリスクが高くなったりすることが知られています。
(引用:大阪市)
性感染症にかかったことがある
クラミジアや淋菌(りんきん)の感染症により、卵管が通りにくくなったり、精子が子宮内に入りにくくなったりすることがあります。
開腹手術を受けたことがある
過去に盲腸、帝王切開、子宮外妊娠などで開腹手術を受けたことがある場合、手術の後遺症として子宮卵管の癒着が起こったり卵管が詰まることがあります。
強い生理痛がある
強い生理痛は、子宮内膜症に多くみられる症状です。子宮内膜症は不妊につながりやすいため、気になることがあれば早めの受診がおすすめです。
経血の量が変化してきたと感じる
経血の量は、年齢やホルモンの状態、病気などによって変化します。年齢によって経血量が減ることもありますし、子宮内膜症や子宮筋腫などで出血量が増えることもあります。気になる体の変化があり、それが続いているようなら、婦人科を受診しましょう。
「経産婦は妊娠しやすい」というのは本当か?なぜ?
「なぜか経産婦(出産経験のある女性)は妊娠しやすい」と言われることがありますが、これには科学的根拠はありません。ですが出産を経験することによって、
- 子宮やホルモンのバランスが変わったり
- 排卵のリズムが整うことがあります。
こういった複数の要因が重なることで、場合によっては妊娠率が上がることもあり得るでしょう。
妊娠の仕組み
ここで改めて、妊娠の仕組みをおさらいしましょう。成人女性の体は、約1ヶ月の周期で脳下垂体と卵巣からのホルモンの刺激を受け、「排卵」と「生理」を繰り返します。脳下垂体から分泌された卵胞刺激ホルモンの働きによって、卵巣のなかの卵胞が徐々に育ちます。
この間に、卵巣からエストロゲンが分泌され、子宮内膜が厚くなって受精卵を迎える準備を整えるのです。成熟した卵子が黄体化ホルモンの刺激を受けて、腹腔内に排出されるのが「排卵」です。
排卵後の卵子は「卵管采(らんかんさい)」によって卵管の中へと取り込まれ、卵管采の奥の「卵管膨大部(らんかんぼうだいぶ)」で精子が来るのを待ちます。卵管内で卵子と精子が出会って受精が成立すると、受精卵は分裂しながら子宮へと移動していきます。受精卵が子宮内膜に着床できれば、妊娠の成立です。
妊娠が成立しなかった場合、厚くなった子宮内膜が排出されるのが「生理」です。生理の初日から次の生理開始前日までの期間を「生理周期」と呼び、25日〜38日が正常周期とされています。
妊娠しやすい時期とは?
妊娠しやすい時期は、排卵の前後です。排卵後の卵子が受精できる期間は、およそ24時間しかありません。また、女性の体内に入った精子が受精能をもつ期間は48時間から72時間ほどです。
受精が成立し妊娠するためには、性交のタイミングが重要になります。排卵日の3日前から排卵日翌日までの5日間が、妊娠しやすい時期だといわれています。中でも最も妊娠しやすい時期は、排卵日の1〜2日前です。
このように、妊娠のためには排卵日を知ることが大切です。
- 基礎体温を記録する
- 自分の生理周期を知る
- 市販の排卵日予測検査薬を使う
などして排卵日を予測し、排卵日に合わせて数回、性交のタイミングをもちましょう。
私って妊娠しにくい? まずはチェックしてみよう!
自分は妊娠しやすいのか、それとも妊娠しにくいのか、簡単にチェックしてみませんか。不妊治療相談センターでは、女性と男性のそれぞれが、2〜3分でセルフチェックできるツールを用意しています。いくつかの質問に「はい」か「いいえ」で答えるだけなので簡単です。
回答すると、「簡易チェックでは、不妊の心配はありませんでした」「近くの病院に相談しましょう」といった診断結果と解説が読めます。
妊娠しやすい体の作り方
では、どうすれば妊娠しやすい体になるのでしょうか。食生活・運動・睡眠・ストレス解消などについて、解説します。
(1)女性編
体重管理を心がける
肥満や痩せすぎは、排卵障害につながります。妊活のため、また健康維持のためにも、体重管理を心がけましょう。
適正体重は、「身長(m)×身長(m)×22」で計算できます。たとえば、身長160cmなら適正体重は
1.6×1.6×22=56.3kgです。
また、肥満や痩せを判断するための指標として使われるのが「BMI」で、「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で計算します。成人では、BMIが18.5未満ならやせ、18.5以上25未満が標準、25以上が肥満です。
たとえば、身長160cmで体重70kgの人のBMIは
70÷1.6÷1.6=27.3となり、肥満だとわかります。
引用元)厚生労働省 BMI
(2)男性編
長時間のサウナを控える
サウナや長風呂で体温を上げると、精子の数や精子の運動率が低下するとの報告があります。精子は熱に弱いため、妊活中は控えましょう。
ストレスを発散する
心理的なストレスも不妊に影響します。適度にストレスを発散しましょう。
引用元)広島県ふたりの妊活全力応援 男性の妊活 精子力を高める8つのポイント
(3)カップル編
たばこやアルコールを控える
喫煙は、吸っている本人だけでなく周りの人も妊娠しにくくさせてしまいます。また、アルコールのとりすぎもよくありません。男性の場合は精子数の減少や勃起不全、女性の場合は卵巣機能に影響することが指摘されています。
バランスのよい食事をとる
男性も女性も、多くの栄養をバランスよくとることが大切です女性の場合は、妊活を始めたら妊娠初期に必要となる栄養素である「葉酸」を十分にとりましょう。葉酸は、ほうれん草やレバー、納豆などに多く含まれています。
また、葉酸は胎児の神経管閉鎖障害という病気の予防に役立つため、妊活中は食品での摂取に加えて、サプリメントで葉酸を400μg摂ることが大切です。男性は、生殖機能を高める「亜鉛」を補充しましょう。亜鉛を多く含む食べ物は、牡蠣、うなぎ、豚レバーなどです。
適度な睡眠をとる
適度な睡眠は、体力を回復させ、ストレスを解消させてくれます。
適度な運動をする
適度な運動は、ストレスを発散するだけでなく、体重管理にも役立ちます。手軽にできるウォーキングやストレッチ、自宅での筋トレなどがおすすめです。
引用元)広島県2人の妊活全力応援 女性の妊活 妊活中に気をつけたいポイント
検査のすすめ
もちろん妊活や妊娠しやすい体作りを始めても、すぐに妊娠できるとは限りません。ですが、
- もしかして不妊かもと悩んでいる
- セルフチェックで「はい」がいくつかあった
- いつもと経血の量が変化した
など、気になることがある人は早めに医師に相談し、検査を受けましょう。
生理痛や性交痛、生理以外の出血などは、子宮や卵巣の病気のサインかもしれません。妊娠前の検査が早めの治療につながり、早めに妊娠できる可能性へとつながるでしょう。
助産師からのメッセージ
妊娠できる人の特徴や妊娠しやすい体の作り方について解説しました。妊娠しにくい原因は女性側だけにあるのではなく、男性側にあることもあります。
妊娠には、2人の協力が欠かせません。2人で一緒に妊娠に向き合うことが、家族の絆をより一層、強くしてくれることでしょう。