知りたい!卵子凍結から妊娠までの流れ
卵子凍結とは
卵子凍結とは、卵巣 から採取した卵子 を、将来の妊娠に向けて冷凍保存することです。冷凍保存することで、病気の治療や加齢などによる影響を受けることなく、採卵・保存したときの状態で卵子を保管できます。
卵子凍結には、「医学的適応による卵子凍結」と「社会的適応による卵子凍結」の2種類があり、それぞれ対象が異なります。
■医学的適応による卵子凍結
医学的適応による卵子凍結は、卵子凍結時に43歳未満であり、化学療法や放射線療法などの治療を受ける予定のある人や、生殖器のがんや脳腫瘍などに罹患して将来的に妊娠が困難になる可能性が高い人などを対象としています。
■社会的適応による卵子凍結
女性は35歳を超えると妊娠が難しくなり、流産しやすくなることが知られています。これは、加齢による 卵子 の質の低下が影響しています。加齢による影響や将来の妊娠に不安を抱く人を対象に行われるのが、社会的適応による卵子凍結です。若い時期に卵子を凍結することで、加齢による影響を軽減し、妊娠を望む時期まで卵子を保存できます。
日本生殖医学会が2013年に発表した「社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン」によると、40歳以上の採卵・凍結保存は推奨されていません。そのため、39歳以下での卵子凍結が望ましいです。
未受精卵凍結と受精卵凍結がある
一般的に卵子凍結とは、「未受精卵子凍結」のことをいいます。名前のとおり、受精する前の卵子を凍結保存することです。
未受精卵子凍結に対して、受精後の卵子、つまり受精卵を凍結保存するのが「受精卵凍結(胚凍結)」です。受精卵凍結は将来の妊娠のために保存する目的以外に、不妊治療としてよく行われています。不妊治療で状態が良好な受精卵( 胚 )が多くできた場合や、体調を整えるために 採卵 した周期に 胚移植 しない場合に行われます。
受精卵凍結とくらべて、未受精卵子凍結は凍結・融解による影響を受けやすいため、パートナーがいる場合には受精卵凍結を選択したほうがよいでしょう。
引用元)日本がん治療学会 『小児,思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン』2017 年版 クリニカルクエスチョン・推奨一覧
日本産婦人科医会 1.妊娠適齢年令
日本生殖医学会 社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン
日本生殖医学会 Q14.受精卵の凍結保存とはどんな治療ですか?
未受精卵の採卵から凍結までの流れ
卵子凍結を行うには、まず診察や検査が必要になります。問診や内診、超音波検査などを行い、卵巣の状態や病気の有無などをチェックします。卵子凍結を行うのに問題がなければ、下記のような流れで卵子凍結が行われます。
- 1.排卵を促す
1回で多くの卵子 が 採卵 できるように、排卵誘発剤 を使い、複数の卵子の発育を促します。排卵誘発剤は飲み薬や注射がありますが、その人の状態に合った方法を医師が選択します。排卵誘発を行わずに、自然に 排卵 を待つ方法もあるので、心配な場合には医師に相談するとよいでしょう。 - 2.採卵する
卵子が成熟した段階で、採卵を行います。超音波検査をしながら、膣から細長い針を卵巣に刺し、成熟した卵子を吸い出していきます。痛みの感じ方は人それぞれですが、麻酔を使用する場合が多いです。 - 3.卵子を凍結する
採取した卵子のうち、状態のよいものを専用の液体で保護し、凍結による影響が最小限になるようにします。液体窒素に入れて凍結し、妊娠を望む時期が来るまで超低温の環境で保存されます。
ここまでが卵子凍結に必要なステップです。
未受精卵凍結から妊娠までの流れ
妊娠を希望する時期が来たら、凍結した卵子でどのようにして妊娠するのでしょうか?凍結・融解した 卵子 を用いて妊娠するまでの流れをみてみましょう。
- 1.解凍する
卵子の細胞に負担がかからないように、凍結した卵子を専用の液体(解凍液)に入れて瞬時に温めて解凍します。細胞が壊れやすい温度や濃度を避けることが重要になります。 - 2.受精・培養
解凍した卵子は、 顕微授精 を行うことで 受精卵 となります。顕微授精とは、顕微鏡を見ながら、精子の入った針を 卵子 に刺して注入する方法です。受精卵は、細胞分裂が順調に進むか確認しながら、数日培養されます。 - 3.胚移植
培養した卵子のうち、順調に育った 受精卵( 胚 )を子宮内に移植します。無事に子宮内膜に着床すれば、妊娠成立です。
妊娠成立後は、自然妊娠と同じ流れとなります。
引用元)日本がん・生殖医療学会 妊孕性温存方法
未受精卵凍結のリスク
未受精卵子凍結では、採卵 のために 排卵誘発剤 を使うことが多いです。排卵誘発剤は、複数の卵子の発育を促す薬剤で、重篤な副作用として 卵巣過剰刺激症候群( OHSS )を発症する場合があります。
卵巣過剰刺激症候群は、排卵誘発剤による 卵巣 への刺激が過剰となり、卵巣 が膨らんだり、お腹や胸に水がたまったりする状態です。症状が進行すると、腎機能が低下したり、血管内に血の塊ができたりすることもあり、命に関わります。そのため、急にお腹が張る、気分が悪い、体重の急増、尿量が減ったなどの症状が出たら、すぐに病院を受診しましょう。
また、採卵時に膣から卵巣へ針を刺すため、出血や感染のリスクがあります。採卵後に、出血が多かったり、発熱や腹痛が続いたりする場合にも、早めに病院を受診することが大切です。
引用元)厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
日本受精着床学会 Q14. ARTの副作用を教えてください。(米国生殖医学会説明記事より改変)
どんなクリニックで卵子凍結は可能?
卵子凍結には医学的適応による卵子凍結と社会的適応による卵子凍結があり、両方行っている病院もあれば、どちらかしか行っていない病院もあります。受診前には病院のホームページの確認や、電話で問い合わせるなどしてみましょう。
日本産科婦人科学会の施設検索で「医学的適応による未受精卵子、胚(受精卵)および卵巣組織の凍結・保存に関する登録施設」を検索すると、2023年3月現在で180施設が登録されています。この中には、社会的適応による卵子凍結も行っている病院もあります。
登録には一定の条件をクリアし、日本産科婦人科学会の審査を受けて承認を得る必要があるため、病院を選ぶ際の基準にするとよいでしょう。
引用元)日本産科婦人科学会 施設検索
費用と助成金について
卵子凍結にかかる費用は保険適用外のため、採卵 に15~50万円程度、卵子凍結に卵子1個あたり1~5万円程度、保存に1年あたり2~3万円(保存容器1個につき)必要です。病院によって金額が異なるため、治療を受ける前に確認しておきましょう。
費用助成については、医学的適応による卵子凍結と社会的適応による卵子凍結で違ってきます。
■医学的適応による卵子凍結の場合
医学的適応による卵子凍結は、保険適用外ですが助成金があります。卵子凍結には、1人につき通算2回まで、1回あたり20万円の費用助成があります。
さらに、凍結した卵子を使って顕微授精した場合にも、費用助成を受けることが可能です。年齢が40歳未満の場合は通算6回まで、40歳以上43歳未満では通算3回まで、1回あたり25万円が助成されます。
■社会的適応による卵子凍結の場合
社会的適応による卵子凍結は保険適用外であり、全額自己負担となります。助成金もないのが現状です。しかし、福利厚生として取り入れる企業が少しずつ増えており、費用面での制度の充実が期待されます。
引用元)厚生労働省 妊孕性温存療法
厚生労働省 温存後生殖補助医療
専門家より
\ 卵子凍結の検査や流れが分かる /
卵子凍結 説明会動画
中友里恵
卵子凍結から妊娠するまでには、いくつかのステップがあります。そのステップを進んでいくことで、将来の妊娠への可能性をつなぐことができます。最初のステップを踏み出すのに勇気がいるかもしれません。まずは、卵子凍結について不安や心配事を相談するという形で受診してみるとよいでしょう。一歩踏み出せば、今までとは違った未来が見えてくるかもしれません。
卵子凍結に向けた検査や、保管料、融解してから体外受精をするまでにも費用がかかりますので、費用もよく知った上で選択をすると良いでしょう。