卵管水腫は、卵管内に液体が貯留して「受精卵が子宮へ向かう通り道」に影響する所見です。卵管造影(HSG)や超音波検査で疑われた場合、体外受精(IVF)を計画する前に先行処置(前処置)を検討することがあります。ただし、最適解は一つではありません。水腫の部位・広がり(片側/両側・遠位)、年齢・卵巣機能・精子所見、既往手術や炎症の既往などを総合して「最短で納得できる道筋」を設計します。本記事は、前処置を考える理由、選択肢の比較、受診ステップとよくある質問をわかりやすく整理します。
なぜ「体外受精(IVF)の前に」前処置を考えるの?
IVFは重要な選択肢ですが、卵管水腫があると子宮内の炎症や胚移植の条件に影響する可能性が指摘されることがあります。事前に水腫へ対処することで、IVFの計画を整えやすくするという考え方が一般にあります。一方で、年齢要因が強い・他因子が重い場面では、待機や段階的アプローチで時間を失うデメリットも。だからこそ、前処置の要否は原因(卵管)×時間軸(年齢・妊活期間)×他因子で判断します。
卵管水腫が妊娠に与える影響
水腫は主に遠位(卵巣側の卵管の出口部分)に液体がたまる状態で、卵管造影(HSG)では袋状に膨らむ像、超音波では嚢状の黒っぽい像として示唆されます。液体が子宮腔へ逆流する仮説や、慢性炎症の影響が議論されることがあり、移植前に対処(例:切除・クリッピング術、開口術など)を併せて検討することがあります。とはいえ、所見の程度・片側/両側・他因子の強さによって方針は変わるため「一律の正解」はありません。
卵管造影(HSG)/超音波の限界と再評価の考え方
HSGや超音波は通過性や形態の推定に有用ですが、検査刺激や読影条件で「疑い」が過大/過小に見える場合もあります。結果票と画像をセットで再確認し、必要に応じて別法(例:時期を変えた再検査、MRI検査、部分的な卵管造影、腹腔鏡など)を用いて、所見の再現性を確かめましょう。

「年齢×期間×因子」
卵管水腫の対処は、卵管だけを見ても決まりません。年齢(時間価値)・妊活期間(あと何周期検証できるか)・因子(卵巣機能・精子所見・子宮内因子・炎症既往など)をいつ何をどの順序で試すかを医師に相談しましょう。また次の治療を相談する時期ををあらかじめ決めておくとと、漫然とした様子見や過度な焦りを避けられます。
チェックリスト
- ・年齢・妊活期間:切り替えの基準(◯周期/◯か月)を前もって設定。
- ・卵巣機能・採卵計画:AMH・卵胞数・希望する採卵回数や時期。
- ・精子所見:量・運動率・形態、洗浄後の所見など。
- ・水腫のプロファイル:片側/両側、遠位優位か、嚢のサイズや再現性。
- ・既往・炎症歴:骨盤手術、クラミジア感染、骨盤痛・子宮内膜炎など。
- ・生活・心理・通院負担:仕事・家族計画・費用の許容範囲。
次の治療の相談事項
- ・評価指標:前処置後の回復状況、採卵・移植の進捗、子宮内膜・ホルモン指標、超音波所見。
- ・判断の基準:例)回復後◯周期内に採卵→移植へ/水腫所見が持続する場合は別手段へ、など。
- ・リミット:目標時期(◯年◯月)・許容負担・面談日(数周期ごと)を紙で確定。

卵管水腫での治療選択肢とは
ここでは、卵管水腫で議論されやすい選択肢を目的・負担・検討期間などで俯瞰します。実施体制・保険適用・自己負担は施設と制度で異なるため、最終的な可否は担当医へ確認してください。
選択肢の比較表
| 選択肢 | 向いている状況の例 | 主な目的 | 通院負担 | 検討期間の目安 | 補足 |
|---|---|---|---|---|---|
| 腹腔鏡手術 (腹腔鏡下卵管形成術) | 遠位(卵管の出口に近い部分)の癒着・嚢状膨大が明瞭/両側または大きい水腫 | 病変の評価・癒着剥離・切除など | 中〜高 | 回復をみて次段階へ | IVF計画とセットで検討 |
| FT(卵管鏡下卵管形成術等) | 近位(卵管の入口に近い部分)の構造的な通過不良が疑われる | 通過性の整備 | 中(一般に日帰りのことあり) | 術後 数周期で見直し | 遠位の強い水腫には適さない場合 |
| IVFを先行 | 年齢要因が強い/他因子が複合 | 時間の観点を重視して機会を確保 | 中〜高 | 周期単位 | 必要に応じて前処置を併用 |
※上表は一般的な整理です。実施可否・術式・保険適用・自己負担は施設・制度により異なります。本ページは特定施設の標準運用を示すものではありません。
水腫のタイプ別の考え方
- ・片側水腫:所見が小さく症状に乏しい場合でも、逆流の影響を議論することがあります。年齢・他因子と希望を踏まえ、前処置の可否を検討します。
- ・両側水腫:遠位の嚢状像が明瞭なら、前処置の優先度が上がることがあります。IVF計画とセットでスケジュールを設計します。

受診の流れとスケジュール設計
受診からIVFまでを見通すと、不安が行動計画に変わります。以下は一例です(施設差あり)。
初診〜術前説明
- 初診:画像(HSG・超音波)と結果票、既往・炎症歴、これまでの治療、希望(採卵回数・時期など)を共有。
- 追加検査:必要に応じて所見の再確認(別時期の超音波、MRI検査、部分的な卵管造影で近位の確認など)。
- 方針会議:前処置の有無と種類、回復見込み、採卵・移植の大枠スケジュールを担当医と合意。
前処置後〜IVFへ
- 回復確認:疼痛や発熱の有無、超音波での液体貯留の再評価。
- 採卵計画:卵巣機能や希望時期に合わせて刺激・採卵スケジュールを調整。
- 移植準備:内膜・ホルモン環境の調整、必要なら追加の子宮腔評価。
- 面談:数周期ごとの振り返りで、計画の微調整/方針転換を機動的に行う。
よくある質問(FAQ)
代表的な疑問をまとめました。いずれも一般論であり、可否・手順・時期は個別に判断します。
- ・Q. 水腫があるとIVFはできませんか?
A. 状況によりIVFを計画しますが、所見によっては前処置を併せて検討します。可否は担当医にご確認ください。 - ・Q. 前処置のメリットと負担は?
A. 目的や方法により異なります。期待と注意点、回復の目安は術前に説明されます。 - ・Q. FTは水腫に有効ですか?
A. 遠位の水腫が強い場合は適さないことがあり、FTは主に近位の部分的な通過不良が疑われるケースで検討されます。 - ・Q. 片側水腫なら前処置は不要?
A. 年齢・他因子・希望に応じて計画します。片側でも影響が疑われる場合、前処置を検討する選択肢が生じます。 - ・Q. 費用や制度は?
A. 保険適用の範囲があります。自己負担は条件や制度・施設で異なるため、最新情報は院内案内をご確認ください。
参考元:J-STAGE 卵管留水腫に対する腹腔鏡下卵管切除術前後の卵巣機能と術後妊娠率
厚生労働省 難 治 性 不 妊 の 病 態 と 新 規 医 療 技 術 の 評 価 ・ 分 析 に 基 づ く不 妊 症 診 療 の 質 向 上 と 普 及 に 資 す る 研 究
助産師より

卵管水腫があると言われると、不安が多く出てくると思います。
卵管水腫といっても、程度や左右差、再現性によって対応は変わります。軽度であれば経過観察やFTでの再評価を行うこともありますし、強い場合は腹腔鏡での確認や、IVFの前処置として対処を検討することもあります。
大切なのは「結果=終わり」ではなく、「今の状態を知るスタート」と捉えること。焦らず、医師や助産師と一緒に“次の一歩”を整理していきましょう。あなたの体には、まだ多くの可能性が残されています。