卵子凍結後の妊娠しやすい期間とは?
卵子は、若いほど妊娠率が高いことが知られています。卵子凍結は、卵子を若い状態のまま保ち、将来の妊娠の可能性を高めてくれる技術です。しかし、母体は年齢を重ねて妊娠しづらくなるため、いつまでも妊娠を待てるわけではないのです。では、卵子凍結後の妊娠しやすい期間とはいつなのでしょうか?くわしく解説します。
卵子凍結とは
卵子凍結とは、卵巣 から取り出した 卵子 を超低温で保管することを指します。採取した卵子の中から良好な状態のものを選び、専用の液体で細胞を保護して、液体窒素で急速冷凍します。この技術により、卵子は凍結状態のままで長期間保存が可能です。
卵子凍結には、がん治療などを受けることで将来の妊娠が難しくなる人を対象とした「医学的適応による卵子凍結」と、加齢による将来の妊娠への不安を持つ人を対象とした「社会的適応による卵子凍結」の2つがあります。どちらも、将来の妊娠への望みをつなぐために行われており、多くの女性の未来を明るいものにしてくれています。
引用元)日本がん・生殖医療学会 妊孕性温存方法
日本がん治療学会 『小児,思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン』2017 年版 クリニカルクエスチョン・推奨一覧
日本生殖医学会 倫理委員会報告「未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関する指針」
凍結卵子を用いた妊娠の方法
妊娠を望むタイミングが訪れたら、凍結された卵子を融解して 顕微授精 が行われます。顕微授精は 体外受精 の方法のひとつで、顕微鏡で見ながら卵子の中に精子を直接注入し、受精 を助ける方法です。受精後、受精卵 は発育状況を観察しつつ数日培養した後に、子宮 に戻すことになります。これを 胚移植 と言います。
ただし、凍結した 卵子 がすべて 受精 し、胚移植できるわけではないことを知っておきましょう。顕微授精後に受精後の変化がおこらなかったり、発育がストップしたりする場合もあります。
引用元)日本生殖医学会 Q13.顕微授精とはどんな治療ですか?
卵子凍結の妊娠率
卵子凍結した卵子を使った妊娠率は、100%ではありません。日本産科婦人科学会の報告では、2020年に行われた凍結卵子を用いた、胚移植 あたりの妊娠率は29.0%でした。胚移植が155回行われたうち、45例が妊娠できています。しかし、顕微授精はしたけれども、受精しなかったり発育が止まってしまったりするなどで、胚移植ができない場合も少なくありません。胚移植ができなかったケースも含めると、妊娠率はさらに低くなります。
卵子凍結すれば必ず妊娠できる、というわけではないことを知っておきましょう。
卵子凍結の流れ
卵子凍結はどのようにして行われるのでしょうか?クリニックや病院によって差はありますが、おおまかな流れは下記のとおりになります。
- 診察や検査を行う
卵子凍結ができる状態か確認するため、問診や内診、血液検査などを行います。もし、婦人科疾患やなんらかの病気が見つかった場合には、その治療が優先されることがあります。 - 卵子の成熟を促す
卵子凍結を行うには、卵子を採取( 採卵 )する必要があります。採卵する前に行うのが、排卵誘発 です。1回の採卵で多くの卵子 を得るために、排卵誘発剤を使って複数の 卵子 の発育を促します。排卵誘発剤には、飲み薬や注射などがあり、その人の状態に合った方法が選択されます。
排卵誘発剤は強い副作用が出る場合があるので、心配になる人もいるでしょう。自然な排卵を待つ方法もあるので、医師に相談するとよいでしょう。
- 成熟した卵子を採卵する
卵子が成熟すれば、いよいよ 採卵 です。超音波検査で卵巣を確認しながら、膣から細長い針を卵巣に刺し、成熟した卵子を吸い出していきます。痛みを強く感じる場合もあるので、麻酔を使用するケースが多いです。 - 卵子を凍結する
採卵したら、状態のよい卵子を選んで専用の液体で保護します。こうすることで凍結による影響が最小限になるようにします。卵子は、凍結保存用の容器に入れて液体窒素を使用して凍結し、妊娠を望む時期が来るまで保存されるのです。
引用元)日本がん・生殖医療学会 妊孕性温存方法
卵子凍結後の妊娠しやすい期間
凍結卵子を用いた妊娠のベストな時期はいつなのでしょうか?その答えは、「できるだけ若い時期」が答えとなります。凍結卵子自体は、凍結保存によって半永久的に状態を保てますが、母体の老化は現在の医学では止められません。
妊娠を望む時期が来るまでに、母体は着実に年齢を重ね、体力や予備力、子宮の機能などが低下し、婦人科疾患の発症率が高くなります。とくに35歳前後からは、妊娠率が低く、流産率が高くなるため、不妊 や 不育症 になりやすい状態と言えます。
さらに下記のような状態は、妊娠しやすい時期を縮めてしまう可能性があるため、注意が必要です。
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※BMIは肥満度の判定に用いられる指標で[体重(kg)]÷[身長(m)×身長(m)]で計算されます。
上記の状態を避けられれば、妊娠しやすい期間の短縮を防ぐことができるでしょう。
引用元)日本生殖医学会 Q22.女性の加齢は不妊症にどんな影響を与えるのですか?
徳島県医師会 卵管水腫 -適切な抗生物質投与を-
厚生労働省 肥満と健康
妊娠しやすい時期を最大限に活かすポイント
妊娠しやすい時期を最大限に活かすには、下記の6つのポイントを押さえた生活を心がけることが勧められます。できるところから取り入れてみましょう。
ポイント1 年に1回は婦人科検診を受ける
婦人科疾患は症状がほとんどないものもあり、気づかないうちに妊娠しにくい状態になっている場合があります。また、症状はあるけれど我慢できるからとそのままにして悪化してしまうケースも少なくありません。
年に1回は婦人科検診を受け、子宮がん検診やおりもの検査をしてもらいましょう。おりもの検査では、性感染症の有無を調べることができます。淋菌やクラミジアなどに感染すると、症状がほとんどないまま卵管や骨盤内の炎症を引き起こすことがあり、不妊の原因となります。
会社で婦人科検診を受けられる場合がありますが、子宮頸がん検診のみの場合も少なくありません。そのため、婦人科クリニックや病院を受診して、検診を受けるようにしましょう。
ポイント2 性交時はコンドームをつける
不妊の原因となる淋菌やクラミジアはセックスによって感染します。男性側が 淋菌 や クラミジア に感染しているか、本人も知らないことはよくあります。感染を防ぐには、必ず挿入前から男性がコンドームをつけることが重要です。
コンドームをつけない性交は、望まない妊娠や性感染症の危険があります。コンドームを付けることを拒否する男性とは付き合わないのが賢明と言えるでしょう。
ポイント3 栄養バランスの整った食事をとる
血圧や血糖値は、日ごろの食生活が大きく影響します。1日3食きちんととること、不足しがちな野菜や魚をメニューに加えること、間食は控えめにすることを心がけましょう。
おすすめなのが、野菜や肉などの具材をたくさん入れたお味噌汁やスープです。豊富な栄養素を簡単にとることができ、からだも温まります。一度にお鍋にいっぱい作っておき、数日かけて食べると効率的です。
ポイント4 運動習慣を身につける
運動は、高血圧、糖尿病、肥満、高脂血症などの生活習慣病を予防するのに有効です。これらの生活習慣病は妊娠しにくくなるだけでなく、妊娠合併症を引き起こす要因にもなります。運動習慣を身につけて予防することが勧められます。
趣味のひとつとしてスポーツを始めたり、通勤のときに一駅歩いたりするなど、できるところから運動習慣を取り入れてみましょう。
ポイント5 禁煙する
喫煙は不妊の一因です。タバコの煙はホルモンバランスを乱したり、閉経を早めたりします。妊娠すれば、赤ちゃんへの影響も心配されるため、今のうちから禁煙しておくことが勧められます。受動喫煙も同じく不妊の原因となるため、パートナーや家族にも禁煙してもらうことが必要です。
ポイント6 ストレスを溜めない
ストレスは万病の元と言われますが、不妊の原因にもなります。ストレスの元から離れるのが一番ですが、それが難しい場合にはストレスを定期的に発散することが大切です。友人や家族と過ごす時間を作る、お風呂でゆっくりする時間をとる、旅行するなど、「楽しい」と感じる時間を意識的に作れるといいですね。
引用元)不妊治療は「禁煙!」から
助産師からのメッセージ
\ 卵子凍結の検査や流れが分かる /
卵子凍結 説明会動画
中友里恵
卵子凍結によって卵子の老化への心配は少なくなりますが、母体の加齢による妊娠率の低下・流産率の上昇は避けられません。卵子凍結した場合でも35歳ごろまでが妊娠しやすい期間と言えますが、より妊娠しやすくするには、定期的な検診を受けること、性交時には男性側がコンドームをつけること・健康的な生活習慣を送ることが大切です。
もし婦人科検診を受ける機会が最近なかったという人は、ぜひこの機会に受診してみることをおすすめします。