「IVFに進む前に、ほかの現実的な選択肢はないだろうか」。そう考えたとき、まず確認したいのが卵管因子です。妊娠は、卵子と精子が出会い、受精卵が子宮にたどり着く一連の道のりのうえに成立します。その“通り道”である卵管の状態が、妊活を進める上でネックになっていないかを見直すことには意味があります。本記事は、IVFの前に検討されることがある卵管の通り改善(FT:卵管鏡下卵管形成術)を、合う/合わないの見極め、一般的な流れと安全性、迷ったときの考え方までを整理します。
なぜ“IVFの前に”を考えるのか
IVFは重要な選択肢です。一方で、原因の一部が卵管の通過性に関わっている場合には、先に“通り”を整えることで自然妊娠やAIH(人工授精)に取り組む余地を作れることがあります。身体的・心理的・時間的・経済的な負担の観点から、いきなりIVFへ進まず、段階的に試す方が納得しやすいケースもあります。反対に、年齢要因が強い・両側の重度所見・遠位(卵管の末端、出口部分)病変や卵管水腫の示唆などのときは、IVFやその前処置を先に検討する選択肢が考えられる場面もあります。つまり「必ず前にすべき」でも「必ず不要」でもなく、原因・時間軸・価値観を交えて位置づけが変わる――これが“IVFの前に”を考える理由です。
卵管因子の影響と「通り」の視点
卵管は受精の舞台であり、卵管内で出会い、受精卵が子宮へ移動します。通りが悪いと、出会いそのものや移動が妨げられる可能性があります。卵管造影(HSG)では、近位(子宮側の卵管の入口部分)/遠位(卵巣側の卵管の末端、出口部分)のどこに通りにくさが示唆されるか、左右差や腹腔への拡散の様子を推定できます。ただし、検査刺激で起こる一時的なけいれん(攣縮)などの影響で“疑い”像が出ることもあるため、結果票と画像をセットで再確認し、必要に応じて部分的な卵管造影で再評価を行うことがあります。
FT(卵管鏡下卵管形成術)の基本
FTは(卵管鏡下卵管形成術)、近位の通過不良が疑われるときに、卵管に専用のカテーテルを挿入して通り道を評価し、状況に応じて通過性の改善を目指す手技です。一般に日帰りで実施している施設も多いですが、実施体制・麻酔方式・所要時間などは施設によって異なります。目的はあくまで通過性の整備であり、妊娠の成立を保証するものではありません。術前には、目的、期待できる範囲と限界、代替案(計画的待機/AIH/IVF 等)、一般に起こり得るリスク、術後計画(何を、どのくらいの期間行い、いつ見直すか)を医師と相談します。
流れの例:
①初診等でHSG画像・結果票・既往を整理→②術前説明と同意→③FTの実施→④安静→⑤術後の方針合意(数周期(目安3か月)で検証→見直し)。
*痛みの程度やお仕事への影響は個人差・施設差があるため、担当医にご確認ください。
FT(卵管鏡下卵管形成術)が合う/合わないケース
合う可能性が考えられるケース
HSGで卵管閉塞や卵管狭窄が示唆され、他因子は比較的軽度、年齢的にも一定の時間余裕がある――このような状況では、FTの検討余地が生まれます。目的は“通り”の妨げを整えて、自然妊娠やAIHに取り組む機会を整えること。術後は数周期で振り返り、結果が乏しければ次の段階へ進むイメージです。
合わない可能性が考えられるケース
年齢要因が強い、卵巣予備能の低下が目立つ、遠位の癒着や卵管水腫の示唆がある、重度の男性因子が重なる、妊活期間が長い――こうしたケースでは、IVFやその前処置を先に検討する選択肢が考えられます。
注意:いずれも、「合う/合わない」は診療で丁寧に見極めます。
受診ステップ
実施体制は施設により異なりますが、一般的なイメージとして以下の流れを示します。
- 初診:HSG画像・結果票・既往・これまでの治療・希望(自然妊娠希望/IVFも視野に入れている)を共有し、現状整理。
- 術前説明:目的・限界・代替案・一般に起こり得るリスク・当日の流れ・同意書・術後の計画を確認。
- FTの実施(施設差あり):局所麻酔や静脈麻酔にて実施。所要時間は30分程度。
- 安静・帰宅:体調に応じて院内で休憩後に帰宅。翌日以降の生活・入浴・性交渉の留意点などを説明。
- 術後プラン:自然〜AIHの計画の説明を受け、数周期(目安3か月)での見直し日・評価指標・次の治療を確認。
*痛み・麻酔の方法・同席可否・当日の所要時間などの詳細は施設差があります。個別の可否や注意点は担当医にご確認ください。
よくある質問
- Q. どのくらいで日常生活に戻れますか?
A. 実施体制や個人差がありますが、一般に日帰りで実施している施設が多いです。当日の過ごし方や翌日の活動再開は担当医の指示に従ってください。 - Q. 痛みや合併症が心配です。
A. 一般に起こり得るリスクは術前に説明されます。内容・頻度・対処は施設・個別状況により異なります。気になる点は事前に質問メモを作成すると安心です。 - Q. それでも妊娠に至らない場合は?
A. 術後数周期の検証で結果が乏しければ、IVFや前処置の検討を含めて方針を見直します。年齢・期間・他因子・ライフイベントを再評価します。 - Q. 遠方ですが受診できますか?
A. オンライン初診やスケジュール提案など、遠方サポートを行う施設もあります。
助産師より
妊活を進めるなかで「次にどの治療へ進むか」は、とても大きな決断ですよね。IVFは重要な選択肢ですが、その前に卵管の通りを整えることで、自然妊娠やAIHに挑戦できる可能性が生まれることもあります。FTはすべての方に必要な手技ではありませんが、合う人に合ったタイミングで行えば、次のステップへ進む前の貴重な機会となり得ます。
大切なのは「必ずしも一つの道ではない」ということです。ご自身の年齢や他因子、妊活期間、生活とのバランスを整理し、納得できる順番を医師や助産師と一緒に見つけていきましょう。迷いや不安は自然な気持ちです。安心できる情報と伴走で、一緒に取り組んでいきましょう。